ぴぃ・ダイアリー

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心が揺れた瞬間を、出来るだけ書き留めておきたい、そんな場所です。

9ヶ月ぶりに観た、大好きな演技に惹き込まれてしまったお話~「イロアワセ vol.3 〜LiLY whIte〜」

「愛はきっと奪うでも 与えるでもなくて 

 気がつけばそこにあるもの」

 

 このフレーズは、僕が敬愛する詩人のひとり、櫻井和寿氏により1996年に紡がれた「名もなき詩」の一節である。

 


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 物心ついてから、父親の車のカーオーディオで聴き流してきたこの歌詞の意味を初めて考えた時から、「愛とは何か?」という問いを投げかけられたとき、僕はこう答えるようにしている。もちろん、そんな機会は人生で一度も訪れることは無かったが。

 

 ふとしたきっかけで手に取ったはずなのに、気がついたらいつも頭の片隅をときに大きく、ときに小さく蝕んで離さない感覚。僕の中にも、彼の言う「愛」と比べるのはおこがましい気がするが、確かに存在する。

 

 そんな僕の思考の片隅を静かに支配している存在を、実に9ヶ月ぶりに観に行った。その記録をここに残そうと思う。

 

・ROUGH SKETCH ~今回の現場について

 

 今回参加したのは「イロアワセ vol.3 〜LiLY whIte〜」

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 僕の文章をアイドルマスターとかその他のライブの感想以外まで舐めるように見回している奇特な人間ならば、この「イロアワセ」という単語に見覚えがあるかもしれない。ちょっとだけ触れたので。

 

 簡単に言ってしまえば声優、俳優の松田彩希さんがプロデュース(と、言いながら、尋常じゃない量の仕事をする)するイベントであり、僕は第1回目から参加している。

 

 このきっかけも、松田さんと1回目に出演された鶴野有紗さんが出演している「CUE!」のライブ前に演者に少しでも触れておくか、という軽いノリであり、そこで味わった楽しさを引きずったまま、第2回も参加した。第3回もあれば、時間が合えば参加したい、と思っていた。

 

 

 そんな「時間が合えば」は「絶対に行く」に変わった。

 

 軽いノリで触れたコンテンツは、もれなく大きな爆弾が降ってくる、という僕の中にあるジンクス。きっと〇トノ〇〇ヤ〇ン〇にも破れない。

 

 上京してからの約1年と少し、新しい好きを見つけたり、昔からの好きに蓋をしたり、と忙しなく過ごしていたせいで、9ヶ月も間が空いてしまったが、ようやく深川芹亜さんを観に行く機会を得られた。

 何も考慮することもなく(まぁ厳密に言えばギリギリ被りそうなssh……別の女性にニチャニチャするイベントは前日にあったが……そこは、ね?)生身の推しが、キャラクターに命を吹き込んでステージに「イロ」を付けていく様を見届けられた一日。ここからは深川さんだけでなく、多くの演者とキャラクターにより彩られたキャンバスに対する感想と考察、そのキャンバスを作った絵筆のひとつである深川さんに対する感想を書いていく。

 

CANVAS 〜彩られた、「イロアワセ」を観て

 

 第3回目となった今回のタイトルは「LiLY whIte」。

 文字通り「白という色」が全体を貫くテーマのひとつになっていた。一回目から2人→4人ときて、今回は8人のキャスト。その配役が全公演通して変化し、同じ組み合わせが無いように調整されていて、今までより「演技」に比重を置いた公演になっていた。一回目や二回目はどちらかというと、面白くなりそうな要素を詰めて、面白い「イロ」を付ける催しだったので、「演者のパワー」が彩色の主たる要素としてステージを彩っていた印象を受けた。

 

 台本を担当したのは吉岡茉祐さん。あるオタクからそこそこなプッシュを受けていたことと、ナナシスの現地に何度か足を運んでいることもあり、キャストとして以外にも活動している情報は入っていたのだが、創作方面の活動を触れたのは今回がはじめてであった。いや、恐れ入りました。また貴女の作品に、貴女の作品を演じる推しに触れたいです。

 

 そんな台本、物語について。

 

 アーカイブの期間も終わったし映像としての記録も全く無い(松田さん談)とのことなので思いっきりネタバレ&解釈を解放していく。次回このイベントに推しが握られた人々の背中を押すため、また、こんな楽しいイベントがあるんだよ、と伝えるために。

 


・作品のディテールについて 

 

 この作品に登場するのはA-D、そしてAが一人二役として演じる「Aの妹、『リリ』」という5つの配役。彼女らにより『オトモダチコミュニティ』という男子禁制のオフ会をめぐる物語が展開される。

 そんな彼女たち4人にはそれぞれモチーフとなる「花」が存在する。

 Aは「アルストロメリア」「白百合」

 Bは「クロユリ

 Cは「チューリップ」

 Dは「ホトトギス

 花の話が盛り込まれたら花言葉、というのは半ば常套句と言われるとおり、それぞれの花言葉が配役の像と密接に関わっている。後に紹介するあらすじを読んだあとに、是非とも調べていただきたい。

 

 モチーフと簡単な設定を頭に入れてもらったところで、次に進む。ここからはあらすじを斜体で書き、僕の考察や感想を付け加えていく。

 

・ACT1 〜邂逅

 

 彼女たちの邂逅と、「オトモダチコミュニティ」という舞台の説明。Cはそこに「新たな出会い」を求めて参加したことが明かされる。のだが、BとDの会話から、彼女たちはCについて知っているような雰囲気を醸し出している。

 


 短い反応というか、セリフにない「間」がCの異物感、招かれざる客としての属性を付与していた。

 特にDがCを一瞥したときの「…まじか。」という呟き探るような「ふうん」という反応、極め付けはBの「ずっと楽しみにしてたんだ!」という発言。この発言が後に最大の皮肉と分かったとき、息を呑んでしまうこととなった。

 


・ACT2〜融解していく「うわべ」の関係

 

 うわべでは初対面、ということになっている彼女たちは、お互いの様子を探り合っていく。そこで「Cの同性愛嗜好」と「Dが配信者で、CはDを推している」という2つのカミングアウトがなされる。そのカミングアウトが受け入れられたと感じたCは、Aに好感覚を伝えるが、Aからは「無事に帰れたら」という意味深な返答が返ってくる。

 


 ACT2は、視界から得られる一つ目の情報で首を傾げることになる。

 それは管理者によるメッセージ。『オトモダチコミュニティ』の入室条件が書かれた何の変哲もないメッセージだが、その投稿日は2019年12月。作中のオフ会が開催されている2022年7月から不自然に間が空いていることに気がついた。この余白に何かがあったに違いない、という確信を持って物語は続いていく。

 

 そのあとに続くCの語り「管理人さん(A)の顔を見て、素敵な日になると確信した」「好きな人と初めて会った時って、こんな感じだったっけ?」は、物語が進行する上で押さえておくべきセリフである。

 

・ACT3〜役者を楽しむ綿密に練られたアドリブパート

 

 ACT3では、参加者たちがゲームを通じて仲を深めていくアドリブ中心のパートである。そのゲームを終えて、Cは「推し」であるDの人間味ある姿が、出来上がった「配信者としての、崇拝する概念としてのD」とかけ離れたところに失望してしまう。その失望に対して、Cは謝罪を申し込もうとする。

 

 このパートは「イロアワセ」というイベントあるある、と言ってもいい箇所、ゲームパートが存在する。みんな大好き「女性声優のワチャワチャゲームタイム」。流石プロデューサー松田、オタクを良く分かってるね。

 ……とか言いながら台本を後に見ると「Dの勝ち負け」によってセリフが場合分けされていて、一本取られてしまった。完全アドリブに見せかけて、演技という筋は通すという仕掛け。台本は必須アイテム。肝に銘じます。

 

 このシーンで印象に残ったのは「ステージに立つ人間の代弁」のような台詞が散見されたこと。

 Dの「本当は趣味でゲームやってたい。誰かに見せるためじゃなく、純粋に好きなことを好きなようにやりたい」「曲や歌も、事務所が絡む」という点。

 そしてAの「みんな何処かで偽って生きてる。人に好かれるため、身を守るため、化けの皮を被って生きてる。それが人間」という台詞。

 役者って、演者ってこういう葛藤を抱えているんだろうな、という点が読み取れた。もっとも、Aの台詞については役者の苦悩の代弁という意味だけでなく物語の伏線を孕んでいるのだが……

 

・ACT4〜 一つ屋根の下、二つの夜

 

 

CはDの部屋に忍び込み、会話を試みる。Dは彼女の侵入を受け入れつつ、探りを入れていく。コミュニティの募集要項について、彼女がここに来た目的について、そして「白百合」について。その探りはBの侵入によって妨害されるも、Dは Cが「何も知らない、覚えていない」状態にあることを悟り、コミュニティから去るよう勧めるが、Cは Dが似たもの同士(同性愛者)であること、そしてその対象はBであることを見抜き、「代わりになれますか」と誘う。

 その頃、AとBの間にも、同じように、「誰かの代わり」になる時間が流れていた。

 

 

 ここから物語は「転」に入っていき、CとC以外の間に「かつて何かがあった」ことが浮き彫りになっていく。「白百合」「リリ」と呼ばれる概念の提示、そして「推し」であるはずのDの香りを「よく知らない女の人の香り」と切り捨ててしまうCの語りから展開の変化が読み取れる。

 この「よく知らない女の人の香り」という表現は、「知っている女の人の香り」があることを暗に示しており、この場所はCにとって、訪れたことがあり、記憶はなくとも、感覚が生きていてこの場所に赴いた、ということを示しているのではないかと考える。この「鼻・匂い仮説」は僕の考察の一つとしてあとで擦らせてもらうので、覚えておいてほしい。

 

・ACT5〜急転

 

 夜が明け、朝を迎える。

 続々と起きてくる登場人物。その中で最後に起きてきたDは、Cの挨拶を受け入れる。それに対してAとBは騒ぎ立てる。朝日の眩しさに立ちくらむC。そんな平穏な朝。流れてきたニュースは、「花白リリ」という女性の遺体が見つかったことを伝える。

 A「……リリ」

 C「白百合が、死んだ。」

 明らかに動揺しているAとC。Bは何かを決心し、DはCの背中を押して逃がす。Bを止めるA、朦朧とした意識の中、走るC。Cの前には、「誰かは分からないけれど、愛しいと思う」姿の女の子が立っていた。

 

 このシーンでは、散りばめられた物語のピースが一気に集結していく、まさに「転」の真っ只中に感情を預けていた。登場人物の愛・憎・焦。この乱暴に卵黄をかき混ぜるようなスピード感に惹き込まれていた。起承の答え合わせという、考察の余地を挟まない展開。本当に映像が無いのが惜しい。

 

・ACT6~ 狐の嫁入り

 

 意識を失い倒れたCを見舞うBとD。Cを囲む彼女たちの間には、Cの「圧倒的被害者意識」と「記憶の抹消」に対する恐怖が流れていた。

 Dに代わって入ってくるA。被害者意識のないCに手を下す意味を見いだせず葛藤するBは、Aにリリの姿を重ね、少しずつ言葉を零していく。大好きだった「リリ」の面影は薄れるのに、喪った悲しみは消えない。そんなBにAは風にあたってきたら、と提案する。外は狐の嫁入り。化けて「リリ」が出てきそうな、強い雨が打ち付けていた。

 

 ここまで「語り」としてストーリーを進めてきたCが一時退場し、A、B、Dの視座からC、そしてリリという存在について言及される。

 ここで考えたいのは、シーン中盤のAのセリフ「私はもう、卒業していいと思ってる」について。

 この「卒業」とは、どこに向けた発言なのか。

 

 Cという人間の命を断つ決意をここで固めたのか、

 AとBの「仮の関係」を終わらせる決意なのか、

 Dの不埒で、不安な気持ちの後押しをしたいのか、

 それともコミュニティそのものを終わらせるのか。

 

 ここは演じる人がどう感じるかによって変化する見どころの一つであった、と考えている。

 

・ACT7 ~in the past

 

 時は一年前。「オトモダチコミュニティ」のオフ会。

 Cは大好きな「白百合さん」からの愛を求めて参加する。

 このオフ会に幹事として参加していたのがB。Bからはオトモダチコミュニティはかつて「同じ悩みを持ち、集った仲間とお互いをいたわり、愛し、求めるものを返し、感謝する、過ごしやすい楽園」が目的であったこと、Bが「同性愛者」であること、その愛の対象が「リリ」であること、そして「リリ」は「白百合」すなわちAの双子の妹であることが明かされる。

 そのBの「愛する人」であり、Aと「顔が同じ」であるリリはCと対峙していた。愛している人「白百合=A」と全くそっくりであるリリを目の前にしたCの異常性、かみ合わない会話、そして姉であるAが「同性愛者」であるという事実を受け、動揺するリリ。畳みかけるようにCは目の前の女性との「既成事実」を作ろうとする。

 Bはリリがオフ会の会場にいることを知り、また、DからCの異常性を伝え聞き、動揺する。Aとリリの姉妹双方に降りかかった危険な状況と、オフ会を始めてしまった後に引けない状況の板挟みで身動きが取れなくなってしまう。

 そしてCとリリ。リリは「お姉ちゃんを守る」覚悟を決め、Cに「嫌い」と告げる。「愛を享受する」目的でやってきた場所で、受けた否定の言葉。彼女にとって、手をかけるには充分であった。崩れ落ちるリリ。

 そのころBはDの合流を待ち、思いを伝えるためにリリのもとに向かう。それが手遅れであるとも知らずに......

 

 この一年前のシーン。A(リリ)とCの噛み合わない様子や、すれ違う登場人物たちのやりとりや行動に引き込まれていくシーン。人間味の交差するシーンがここから続いていく。

 言及したいのはこの悲劇の起きた要因となるAとリリの取違い。この時点でAとCの直接の接触について言及はなく、判断の手掛かりは他の感覚に頼るしかない。そこで「Aの携帯」を持っていることから、なんらかの探りを入れていたと考える。そこで出てくるのがACT4の「鼻・匂い仮説」。探りを入れるときに染み付いたAの香り。それを感じ取っていたCと出会った「顔が同じ」リリ。厳密には違いがあるのかもしれないが、「恋は盲目」という言葉がある通り、視覚での判断が難しくなっているCはそのまま、リリを手にかけてしまった、と考えた。

 

・ACT8 ~エンディング

 Cが目を覚ますと、そこにはDが居た。「大好きな誰かが居なくなる夢」を見たと話し、「味方になってくれるはず」とDを頼り、愛を受け入れてもらおうと迫るC。それをあしらい、「自分に向けられた愛は、白百合へ向けたものとは違う」「愛に対する見方が、Cと自分とで擦れている」ことを示唆するD。彼女の言葉を受けたCは、「リリの小屋で待っている」Aのもとへ向かう。

 一人になったDのもとにBが訪れ、自らがCに手を下して復讐をする意志がなくなったこと、このことに後輩であるDを巻き込んだことを謝罪する。DはBが手を汚すことがなくなったことに安堵する。

 そのころ小屋では、AとC。ここでAが「殺したはずの」白百合であることが明かされる。

 Cが居なくなってから、時間が経っていることを察したDは二人のもとに向かう。BはDに帰ってきてほしいと伝える。

 再びAとCの対峙。Cに「白百合」であることを伝えたAは「本物の白百合」として、Cの言葉を聞き、聞いたうえで、銃口をCに向ける。最後まで嚙み合わないままの会話。それでも死の間際の「愛する人に殺される、これ以上ない幸せ」は叶えられ、Cは斃れる。

 

 小屋に駆け付けたDはAを責めるが、Aの言葉、表情を見て、納得する。そして去り行くAに対し、「アルストロメリア」(Aのモチーフである)、あなたの歌を書いてもいいか、と問い、Aはそれを受け入れ、「最後のお仕事」を頼んで去っていく。

 

 Dが帰るとそこにはB。何気ない挨拶のなかに、「愛しています」とカミングアウトするD。「おかえり」ともう一度答えるBが見つめあい、舞台は暗転する。

 

 

 Aはリリのもとへ。

 Bは送り出したDが帰ってきて。

 Cは愛する人に命を絶たれ。

 DはBに想いを伝える。

 それぞれが何かしらの願いを叶えた、「ハッピーエンドに一見見えないハッピーエンド」でこの物語は幕を下ろす。

 終末に向かっていく物語のなかの見どころをいくつか。

 

 まずはCとDの会話。

 Cは逃げ道を探そうとしてDを自分のものにしようとするが、「白百合に見える何か」のときのように、強引になり切れず、Dの拒否を受け入れる。このシーンからは「推し」と「愛する人」の違いについて、なにか大事な意図が含まれていると感じた。「愛情を注ぐ」という行為という面では同じなのに、「推す」「愛する」という行為が分かれているように書かれているのは何故か。我々は軽率に「推し」という表現を使うが、そのたびに、というと気持ち悪いので10回に1回くらいは考えてもいいんじゃないか、と思った。そのヒントはD、すなわち「推される側」の「私は結局、どこに行っても一番じゃないんだな・・・。」というセリフにあるのかもしれない。

 

 そして最終盤。AとDの掛け合いにおいて、Aは「いかせて」と言い残す。

 このセリフは台本での表記は「逝かせて」となっているのだが、それを持たない我々客にとっては、どこかに行ったとも、そこで命を絶ったともとれる。些細で見逃しかねないセリフに、文字と、声との伝わりかたの違いを感じて唸ってしまった。

 

 ここまで章ごとに紹介してきたこの作品。

 ミステリー、というわけではないため、考察しうる余白がいくつも存在している。まずは1回目の邂逅から2回目に至るまでの過程に、何があったかが語られていない点。

 どうして2回目のオフ会が開かれたのか、リリの遺体について。

 ACT3の最後、画面に映し出された「Cから白百合あての」メッセージ。

 「私は普通じゃない」~「さよなら」という10個のメッセージは、それぞれどのタイミングで送られたものなのか。

 ACT7で「私より貢献しているかもしれない「あの人」と認識しているCにとっての恋敵」とは誰のことなのか。これに関する、一年前の「AとBの関係性」について。

 そして終盤、AがDに頼んだ、「お仕事」の結果。

 

 このようにぱっと挙げるだけでもたくさん出てくる、語られることのない余白を考える楽しさがある、という純粋な作品の享受者としての欲求を刺激されるものであった。

 また、散見された「同じセリフを焼き増し繰り返ししていく」表現。僕がこのブログを書くときに結構意識している文章の”癖”のようなものがあった。ラストシーンでのBとDの掛け合いに「雨降るんじゃない?」「そうですね、洗濯物、気をつけなきゃ」というものがある。このセリフはACT5にも出てきているが、発言している役者、状況によって与える印象が大きく変化する。

 こういった癖に刺さるシーンもあって、朗読劇、演技を楽しめるイベントとして、第一回、二回と同じように楽しめた一日であった。


・PAINTBRASH 〜作品を彩る、キャストについて

 

 と、いうわけでここからはガチ私情のターン。キャストについてと言いながら一人しか観てなかったですが。その人について言葉を尽くして行く。

 

 今回深川さんが演じたのはC、そしてAという2つの配役と、木之本葵というキャラクター。配役については前章で触れているのでそこを参照してほしい。

 

 この「配役にキャラクターの名前がつく」という見慣れない構成、イベントタイトルに即した表現を探すとすれば「重ね塗り」により、深川さんが演じる「Cの木之本葵」と「Aの木之本葵」に付与された属性は大きく変化していた。簡潔に表現するならCは「笑う溌剌な異物」、Aは「愛される自己犠牲」といったところか。

 

 台本やステージを見る限り、「キャラクターの名前」は本編に与える影響はそこまで大きく無いと感じたのだが、演じる配役によってそのキャラクターが観客に与える印象をAの〇〇、Bの〇〇…といったように、変化させることで違ったキャラクターを産み出すという狙いがあったのではないかと考えている。

 


 まずはこの日の昼に演じられたC。販売されていたCDのリーフレットに記載があった通り、深川さんにとっても「いちばん好きな役」であり、ステージを観ている僕にとっても「これ以上ないくらいハマっている」配役であったと考えている。

 中の人とキャラクターは極力切り分けて考えたい、というスタンスを普段取っているのであまりこういう話はしないし正直したくないのだが、深川さんを推すきっかけになった「喜多日菜子」といキャラクターの好きなところに、

 

「妄想をパワーに変える」

「手綱を握らせるようで握らせない」

「ちょっとした狂気めいた振る舞い」

 


 というポイントがある。Cという配役はそこにちょっとした「歪み」を加えている。この「歪み」というのは、例えば日菜子というキャラクターのアイコンである「妄想」。Cはそのアイコンのアタマには「被害」が加えられ、「被害妄想」となっている、といった変化を指す。「大好きな演者を大好きになったきっかけの演技の派生形」を見たのがこの昼の公演である。

 

 ひとことで言ってしまえば、デジャヴ

 複雑な表現をすれば、「意図しない事前知識」

 始まる前は真っ白のはずで用意されたキャンバスには染みのようなものがついていたが、その染みすらも作品の一部であった。

 

 深川さん自身も「噛み合わない会話で掛け合う相手をイライラさせる意図があった」と述べていた、一年前の事件、そしてAとの最期のシーン。息をするのも忘れて観入ってしまったこの箇所は、好きなキャラクターの「if」を仮想体験した予期せぬ満足感と、狂気を持った配役に、愛着を持って命を吹き込む役者としての深川さんの魅力に満ちていた。「久々に推しを観れた!」というシンプルな感動は、分針が90回歩みを進めるうちに次々と色が塗り重ねられていった。

 

 あっという間の感情の起伏と、ちょっとした「良いこと」が起きたあとの夜公演。

 

 ここでの深川さんの配役はA。極端に言ってしまえば「殺し、殺される側」から「殺され、殺す側」への転換。イロアワセという催しのコンセプトにある「さまざまなイロを味わう」ことを心から味わえた采配だった。

 

 狂気の魅力に囚われて、Cだけを見つめていた昼との違いは、ステージ全体の印象もよく覚えている、という点にある。Aはこの作品において、キャラクター同士の関係性のムードメーカーであり、流れという意味ではペースメーカーの役割を果たしている印象を受けた。特にゲームパートのアドリブ。昼公演を経たあとでその先の展開を知っているだけに、シュールさで笑いが込み上げてきた。

 深川さんを観ているつもりが、自然と全体も視えている、という感覚がまず大きな感想としてあった。

 

 この視座を得ることでCに関しては「役者としての演じ方の違い」を感じられたのが副産物としてある。安齋由香里さんが夜にCを演じられたのだが、彼女の演じるCにはまだ「救われるif」「全てを認め、謝るルート」の光明が見えた。それは深川さんの演じるCの暴力的な狂気からは感じられなかったものであった。(安齋さんに関しては親しんできたCUE!のキャラクター「夜峰美晴」のバイアスも多分に含まれるかもしれないが……そこは演者に対する浅さとして許していただきたい。)

 

 さて、Aの深川さんについて。

 

 Cには「大好きなキャラクター」のデジャヴがあってそれに近い演技のハマりようで目が離せなかった、と書いたが、Aにも同様にデジャヴが存在した。

 

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 それがこの記憶。

 はじめて本格的な「朗読劇」というものに触れた「アルセーヌ・ルパン」。そこではじめて目の当たりにして、「何かを演じる姿って、素敵だな」と感じた深川さんの表情。その表情が各所に見られた。

 


 スポットが当たっていない時間に台本に目を落とすとき、スイッチがフッと入る瞬間。

 CとAの会話において、「生きて帰れたら……」と言い終わった後の深川さんの顔から出てる静かな怨念。

 生放送でマシンガントークを繰り広げる芸人根性満載の姿だけでは味わえない、役者としての深川芹亜さんの姿が好きという自覚を更に得られたのがこの夜のことであった。 

 

・SIGNATURES 〜おわりに

 

 さて、ここからは少し気持ち悪い自分語りのターン。さっきまでも相当気持ち悪かったは反則カードなのでやめていただけないだろうか......

 この文章、実はとてつもなく難産だった。

 

 「好き」に対して言葉を尽くすことを意識してこのブログを書いてきたのだが、産み出してきた60を超える怪文書陣のなかで、唯一と言って良いほど避けてきたのが「なにかの物語を解説する」文章、そして「演者」についてフォーカスした文章を書くことだった。今回はその二つに一気に手を出した。

 

 前者は夏休みによくやってたことの再現をするだけで、時間かかるからイヤってだけなのでまぁいいとして、問題は後者。

 

 喜多日菜子や、喜多見柚といった「キャラクター」のことを書くときは、「僕はコレが好き」を半ば押し付けてもキャラクターは成立してしまう。しかし、残念ながら人間はそうはいかない。解釈のメスを入れることで、僕、好きを伝えたい相手、僕と同じように僕が好きな人を好きな誰か、その3方位に「解釈が暴力になってしまうのではないか、という恐れ」があった。

 

 筆が進まない。ただ、筆を満足いくまで進めないと、心が進まない。そんなモヤモヤはこの数日、「他の『好き』」に向かっている瞬間以外膨らみ続けていた。

 

 最後の一押しをくれたのは、やはりその人の声でした。

 

 2021年末。深川さんの冠番組の最終回。基本的にそういう番組はROM専を貫いてきた僕が、はじめておたよりを送ったのがその日だった。

 九州から出て来て、それまでの生活が変わってからも、変わらず応援し続けた深川さんの新しく出会った表情に刺激され、半ば衝動的に書いたメッセージ。それが読み上げられたときの記憶を、本社がよく爆破されている会社に550円払って半年ぶりに掘り起こしてきた。

 はじめて「向こう側から」伝えられた「ありがとう」という言葉と、WIN-WINの関係でいましょう」という言葉。この二つに一気に応えるには、今まで続けてきたブログを書くしかない。とスイッチを入れなおした。その結果がこの文章である。届くかどうかは分からないけれど、読んだ誰かが興味を持って深川さんに触れようと思ってくれたら勝ち、ということにしておきましょう。

 

 朗読劇のような、その場が終わってしまったら二度と会うことのできない一期一会のキャラクターの演技も、恒常的に追えるゲームのキャラクターの演技も「好き」と言えるような存在があることに感謝を。これからも見える範囲は頑張って追います。あと、そういった存在が実際に増えて(2021/04~)、増えつつある(2022/03~)今の状態も恵まれているな、と思っている。声を大にしては言わないけど。ほら文字小さいし、

 

 さて、冒頭で紹介した名もなき詩

 冒頭のフレーズの次に、櫻井氏はこう続けている。

 

「街の風に吹かれて 唄いながら 妙なプライドは捨ててしまえばいい」

 

 触れられなかった、追いきれなかった、あるいは今まで知ることが無かった「好き」なものに対して、罪悪感というルビがふられた「妙なプライド」を捨てて、心から「好き」を享受したこの日を、この「イロアワセ」の感想を風化しきる前に書き留めてられて良かった、と思っている。

 

 

 

 

 ......直接なんか書きますか、流石に。

 

 

 

----------おもひでのしゃしんこーなー----------

 

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昼、マジで迷って開演ギリだった。このせいで台本は売り切れて通販。

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お昼。オタクに教えてもらった店。

 

 

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いや、そんなことある??????

この世の運の全てを使った気がします。ホンマに。

 

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お友達のおかげでブロマイドガチャも全て揃いました。ありがとう。